ソニーReaderの行頭半角括弧に泣く

  三つめの鏡花短編選、「深山編」をアップしましたが、今回もEPUB版で難題が一つ。最後の「雪靈續記」の唄の引用部分。底本では「雪やこんこ、霰やこんこ。」の唄の2行などが、全体を大きく下げた上で、先頭の鍵括弧だけ1字上げて、というか2行目の頭を1字下げて、雪と霰の並びを揃えています。まあ普通こう組むでしょうね。下は iOSのKinoppyの表示で、2行目の頭を1角下げることで底本通りに揃えることができます。けど問題はソニーReader。

 ソニーReaderのepub3は以前に触れたように、起こし鍵括弧が半角に固定されています。そのため2行目を1角下げると1行目より半角多く下がることになってしまうのです。こんな具合。

 かといって、Readerに合わせて下げを半角にすると、今度はKinoppyで揃いません。このままで仕方がないかとも思いましたが、あまり体裁がよくないので一応色々試してみます。例によって泥縄式に検索でそれらしいタグを見つけて片っ端から試します。pre、tt、monospace、white-space…、いづれも効果なく、ソニーReaderの半角鍵括弧は動きそうにありません。Readerで揃ったらKinoppyでズレ、Kinoppyで揃ったらという具合。お手上げであきらめかけた時、起死回生のアイデアが閃きました。

 2行目の頭にも鍵括弧をつけてしまうのです。そうすれば、それが半角であろうが全角であろうが、字は揃います。そして2行目の鍵括弧を見えなくしてしまえばいいのです。CSSで鍵括弧の色を白にするとうまく消えました。バックに色を敷けるビュワーではばれてしまうトリックですが、白バックのみのReaderとKinoppyには有効です。ただし、テキストデータとしてはこの鍵括弧は確かに存在し、しかもあってはならないものですから、これはあくまで、特定のリーディングシステムでの視覚的表象のみに特化した制作事例で、EPUBをインターネットに流通する書籍データの一つとして考えた場合は、明らかに禁じ手ということになるのではないかと思います。タイトルページの擬似中央縦書きといい、こんなことばかりやっていますが、EPUBでの見場と実データとのバランスはよく考えるべき問題だと感じます。

 それにしても、ソニーReaderの起こし鍵括弧の半角固定はやはり少々迷惑ですね。もちろん、組版の方針として行頭括弧の天付きはあり得ますが、先行のドットブックやXMDFは全角で行っているようですし、印刷本でも最近は改行行頭は全角が主流で、半角はあっても非改行の行頭のみというのが多いように思います。特に、会話文が独立した段落になることの多い小説では、鍵括弧に続く文字が、地の文の改行冒頭と揃った方が自然に感じられ、その点でもReaderの改行行頭半角鍵括弧固定は無理があると思います。

 さて、こんなことで一喜一憂しながら好きな作品のEPUB化を楽しんでいる次第ですが、鏡花短編選のシリーズはこれで打ち止めで、後は親サイトの書庫に長く置いている古典テキストや、でき得れば返り点などを使った漢詩文のEPUB化にも手をつけてみたいと考えています。また翻刻ものだけでなく、オリジナルな作物もいずれ出してみたいという下心も抱いています。

2 comments »

  1. Biokovo said,
    6月 22, 2012 @ 3:22 PM

    コメントをありがとうございます。

    おっしゃるようにReaderはルビを中付きにして、親文字をはみ出る3文字以上のルビだと前後に字間をあける設定になっているようですね。逆に言うと、他の文字にもルビがかかるのを許す「ルビかけ」の処理がまったくされていませんね。ですから、総ルビの場合、頻繁に字間が広がった個所が出てきてしまうのが気になるところです。

    逆にKinoppyは肩付きの設定で、字間はそのままで文字かけオンリーで行っていて、酷い場合は2文字下の他の漢字にまでルビがかかるというルール破りを平気でやってしまっています。

    Readerの字間調整とKinoppyの文字かけをミックスしたルビ処理がベストだとは思うのですが、EPUBのリーディングシステムにそこまで要求できるのかどうか…。でも、EPUBが本格的に書物のプラットフォームになることを期待するなら、やっぱりそこまで見ていく必要があるのかもしれませんね。

    漢詩のEPUB化は「EPUB3日本語ベーシック基準」を読むと、今の規格では返り点か送り仮名かどちらかしか生かせないようですが、そこは「見場」として何とかうまくできないか、模索してみるのも面白そうです。

  2. 金田恭俊 said,
    6月 22, 2012 @ 12:30 PM

    はじめまして。
    ePub3試してみましたがとても便利ですね。
    PDFだとルビが多い場合検索が不便だなと思っていたのですが、ePub3だと普通に検索できてよかったです。
    InDesign5.5を最新版にすると、前よりはePub用に書き出しやすくなったのも助かってます。

    この記事で紹介されている画像の「霰」という漢字は、
    親文字よりルビが長くなるケースですが、
    ソニーReaderの場合は調整してくれるみたいですね。
    Kinoppyで総ルビの書籍を試してみたのですが、
    「親文字よりもルビが長くなる場合」が複数あると、
    ルビが繋がって読みにくいのが残念だなと思っていました。

    「返り点などを使った漢詩文」のEPUB化にはとても興味があります。
    貴重な情報ありあがとうございます。

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