晩霞舎本でチェックするEPUBリーダーアプリ

 スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイス上でEPUBを読むことのできるアプリの現状はどうなっているのか。これまで弊舎で作ったEPUB本のうち、特に試金石となりそうな箇所、具体的には文中の挿絵・IVSによる異体字表示・表の3つを中心に、満足できる表示ができているかをチェックしてみました。

 俎上に乗せたアプリは、AndroidではソニーReader・Kinoppy・honto・kobo・Google Playブックス、iOSではiBooks・Kinoppy・honto・kobo・Google Playブックスの6ストア合計10アプリ。ストアを介さなくても自主制作のEPUB本をインポートできるアプリがこんなに増えていたのは嬉しいことです。ほとんどのものはEPUB読書アプリとしての基本的な機能を十分に備えているようですが、少し高度な機能を求めると、必ずしもすべてのアプリが安心して推奨できるとまでは言えなくなるようです。詳しいチェック結果は下の表を確認いただくとして、以下、3つの試金石ポイントごとの各アプリの評価を簡単にまとめておきます。

1.文中挿絵
 チェックポイントその1は文中の挿絵。これはアマゾンで公開している『航薇日記』の巻末に付けた紀行文で使った手法。EPUB版では紀行文は公開していませんが、アマゾン用の元原稿として作成したものがあるので、それを各アプリに読ませてみました。正しく表示されればこんな感じ。ページの上端・下端に写真を配置。サイズはページの40%の幅で、文章は適度なスペースを空けて回り込み、下に1行または2行の左寄せのキャプションという具合。技術的にはCSSで float:right; float:left; を指定して、文中に写真を挿入しています。
 このポイントでベストだったのはiBooksアプリ。要求通りの表示をするだけでなく、普通EPUBでfloat指定をすると位置によってはいやおうなく生じてしまう空白行が生じないよう、写真の位置を次ページに送ってくれます。そしてダブルタップすると鮮明な拡大写真がポップアップされます。満点です。空白行を作らず画像位置を調整するアプリとしては、他にAndroidのソニーReaderとiOSのkoboが上げられますが、ソニーReaderは私のタブレットではなぜか写真が小さく表示されしまうのが残念。一方koboはダブルタップするといきなり画面をあふれる大画像がポップアップされるのがご愛嬌です。Kinoppyは両OSとも空白行ありのfloat処理で、拡大は画像のポップアップではなくページまるごと。小さい画像を拡大しただけなので鮮明さに欠けますし、キャプションがなぜか右寄せになってしまいます。このチェックポイントでiBooks 以外に合格なのは iOSの kobo、なんとかセーフなのはKinoppyでしょうか。他は下表のように失格と言わざるを得ません。

2.異体字
 その2はユニコードIVSの異体字セレクターを使った異体字の表示。これは以前にテスト用に作った親子そば三人客を読ませてチェック。結果はご覧のようにソニーReaderと両OSのKinoppy・hontoがIVSに対応。非対応のアプリでも異体字セレクターを正しく無視して親字を表示すれば、とりあえずパスと言えます。iBooksは対応はしているようですが縦書きでは文字が横転します。koboはAndroidでは非対応、iOSで対応・横転という違った結果に。唯一、異体字セレクターの部分が文字化けしたのは iOSのGoogle playブックス。よってこのチェックポイントで失格は横転のiBooksとkoboと文字化けのGoogle play。いずれもiOSで、Androidには対応非対応とも致命的な破綻は見られませんでした。IVS対応アプリが意外に多かったのは嬉しい驚きです。

3.表
 3つめは表。『茅野蕭々詩集』の「初出・底本一覧」は縦書きの表になっていて、アプリによって表示が異なるのが気になっていました。こんなふうな表ですが、問題になるのはどこで改頁するか。単純な表なら簡単なのですが、2列目の大きな連結マスの部分が扱いを難しくしています。各アプリに読ませてみると、①2列目のマスに関係なくそのままページ幅でマスをすっぱり切ってしまうもの、②マスの切れ目で改頁してページによっては余白が出るもの、③両者を併用するもの、とに分かれることがわかりました。①はソニーReaderとiBooksと両OSのkobo、②はAndroidのKinoppyとGoogle play、両OSのhonto、③はiOSのKinoppy。なお、iOSのGoogle playは最初のページしか表示しないバグ状態。Androidのkoboにもページ端の罫線が消えるという問題があります。また、マスの切れ目で改頁する場合は、ページ末尾と次のページ頭、両方ともに罫線があることが望ましいのですが、残念ながら②のタイプのアプリはすべてページ頭の罫線を表示しません。
 こうした表と改頁の問題点をみごとに解決しているのが、iBooksと両OSのKinoppy。両アプリともメニューからスクロール表示が選択できるため、シームレスな一枚表として表示でき、大変見やすくなっています。またiBooksではスクロール表示を選択しなくても、表をダブルタップすると横書きの一枚表が表示され、やはりスクロールして見ることができます。iBooksでは最初に表示されるページごとの表は文字が大変小さく実用性にかけ、スクロール表示かダブルタップによって一枚表を利用することを前提としていると言えそうです。

 以上、3つのチェックポイントの他、下表の「環境設定」には各アプリの読書関連の設定機能、「特記」には晩霞舎本を表示させて気づいた特色や問題点を列挙していますのでご参考に。

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