By 晩霞舎 ( 2012-07-21 at 12:02 AM) · Filed under ハード
発売日の遅くに、予約していた楽天 kobo touchが届き、さっそく自作EPUBでもって表示具合を確かめてみました。
購入者がかなり多かったようで、サーバーが混雑してセットアップに苦労しましたが何とか始動。ネットではこのセットアップの混乱とマニュアルがないことでブーイングの嵐ですが、まあ、それは機械自体の評価というよりも、その周辺の現象ですから、楽天さんのスタートアップ体制の甘さへの批判は当然としても、もう少し冷静に機能を見極める必要があるのではないかと思います。
で、私の場合は自慢ではないですが、たまたま半年前に海外版を手に入れていましたので、マニュアルがなくても何とかなります。メニュー類の構成はほぼ海外版と同じなので、まるで隠されたようにメニューの奥深くにある「ブラウザを起動」ボタンにたどり着き、そこから書籍ファイルを置いているDropboxにアクセスします(もちろんその前にwifi設定が必要)。手順はこう。
ホーム画面左上の歯車アイコン → 設定ボタン → その他 → ブラウザを起動
ブラウザを起動したら(ブラウザは万事動作がのろいことを覚悟しておいて下さい)、Googleの検索画面が表示されますので、Dropboxを検索。ログイン画面からDropbox に入ります。入ったDropboxはモバイル用のもので、そのままではファイルのダウンロードができませんので、画面最下部左下の「Dropboxバージョン」という文字をタップしてパソコン用画面へ移動します。そして、目的のフォルダへ入り、ファイルをタップすれば上にダウンロードのボタンが現れますので、タップしてダウンロード。すると目的の書籍ファイルがホーム画面に現れるはずです。ブラウザはタップに対する反応も鈍く、何度もタップする必要がありますが、しつこくやっていれば何とかダウンロードまでたどり着けるはずです。
まあ最初は、パソコンとUSBで接続して、エクスプローラーで kobo を開き、書籍ファイルをコピーする方が簡単なのですが、制作途中で何度も確認したい場合などはそれも手間。Dropboxのフォルダをお気に入りかホーム画面に設定しておけば、以後はブラウザを開けばすぐに書籍フォルダを表示することができます。
さて、こうして自作EPUBを koboに登録してさっそく読んでみます。ところがあまり芳しくありません。フォントのリュウミン(KL-R Pr6)はなかなかきれいですが、句読点が変に開いているし、ページ毎に表示される行数が違ってページの左側に大きな空きができたりしています。それにページ送りが横書きのように左開きのままです。そして、ソニーReaderではフリーズしてしまう例の「世話編」の問題個所で同じように固まります。これでは使えません。
大いに落胆して人様の使用記を探っていると、こんな記述に出くわしました。
「ファイル名を ~.epub から ~.kepub.epub に変更するだけで、問題は全部解決してしまう」
確かにパソコンから見た kobo内のデフォルトの書籍ファイルには、.kepub.epubという変な拡張子がついていて何だろうと思ったのですが、この.kepubでEPUB3ファイルを区別していたようです。これまでEPUB2リーダーとして世界的な実績を持つ koboだけに、その機能を犠牲にせずにEPUB3に対応するためには、エンジンを別にするしかなかった、その区別をファイル名ですることにした、ということでしょうか。
それはともかく、さっそく .kepubをファイル名に加えて読み直します。今度は大丈夫です。ページ送りの具合も紙面の様子も先行のリーダーに何の遜色もありません。「世話編」のフリーズも解消しました。それどころか、よく見ると文字組みがかなりしっかりしているようです。ずっと見ていっても、ソニーReaderや Kinoppy、bREADERDで必ず幾つか発生していた行頭行末禁則の破綻がまったく見つかりません。くの字点の泣き別れもありません。それでいて行端はよく揃っています。そして、ルビの扱いもソニーReaderと同じ中付きですが、3文字のルビでも文字かけ処理をして親字の字間はベタ送りを維持しています。4字ルビで少し字間が広がりますが、ソニーReaderのように3字以上は字間を開いてしまい、文字の流れが間延びするという感じはありません。上出来です。
(→ルビに関する追記 正確には、「文字かけ処理は他の漢字にはかけない」という原則をきっちり守っているようで、漢字に隣る場合は3字ルビでも漢字側にはやや字間が開きます。けど、ひらがなにはしっかり文字かけして、4字ルビでも字間の開きは最小限に押さえています。電書でここまでできたら御の字では?)
ついに我々はEPUB3を確実に受けとめてくれる専用端末を手に入れました。って、ソニーReaderがEPUB3に対応した時にも同じようなことを書いたような気がするのですが、その後いろいろと綻びが見えてきてReaderには味噌がついてしまいました。その点 koboは大丈夫でしょう。ソニーReaderやKinoppyに数々の難題をふっかけて困らせてきた鏡花EPUBがこれだけ端正に表示されているのですから。ただし、幾つかさらに高望みをしたい点が見つからなくはありません。
まずこれは最大の高望みでしょうが、IVSへの対応です。bREADERがまさかのIVS対応で異体字の表示を実現してくれた今は、必ずしも無理な願いではないような気がしてきました。現状、koboで異体字セレクター付きのEPUBを読むと、Kinoppyのようにすべて文字化けするというわけではないものの、熟語の場合、一方の文字が消えてしまうという現象がいくつか見られます。ソニーReaderのように完全無視して基本字を表示するというなら、異体字セレクター付きEPUBとの共存は可能ですが、上のような現象があるとそれも難しくなります。また koboはサロゲートペアのユニコード文字にも対応していないようです。これも空白になってしまいます。ソニーReaderは対応しています。さらに外字を画像で表示した場合、画像はかなり右寄りに表示されてしまいます。ルビも右に寄って親字と重ならないのが救いですが、これは早めに修正してもらえたらと思います。これもソニーReaderは問題ありません。
つまり外字・異体字関係の使い勝手はソニーReaderの方が少し上。けど、文字組みと表示の安定性では koboが遥かに勝っています。パソコンからフォントファイルをコピーすることで、多様なフォントを使用することもできます(ただし海外版にある行送りと余白、行揃えの設定機能は、日本版では無効にされているようです)。ようやく信頼できるEPUB3端末を得て、これからは koboを基準にEPUB作りを進めてみたいと考えています。次に来るソニーReaderの新型とKindle日本版にとっても koboのハードルはけっこう高いのではないでしょうか。
→追記 EPUB自主出版の受け皿としてkoboを考える場合、大きな問題があることがわかってきました。本来汎用をめざすEPUBのファイル名にkobo用の「.kepub」をつけなければならないという矛盾は、kobo用ファイルを別に用意することで一応回避できるとしても、なんとこの本にはkobo上ではどこまで読んだかが残らない、という電子本としてほとんど致命的な欠陥が生じてしまうようです。楽天のブックストアからダウンロードした本でない場合、読書記録やメモも残らないというのが、今のところのkobo上での個人制作本の扱いのようです。具体的には読んでいるxhtmlファイルの先頭に毎回戻ってしまいますので、まあ短編集などの場合は何とか耐えられるとしても、長編では悲惨でしょう。毎回記憶を頼りに読んだ個所をただでさえ快適とはいい難いページナビゲーションの中で探さなくちゃならないのですから。この点が解決されない限り「文字組みがきれいですから、ぜひkoboで読んでください」とはいいにくくなってしまいましたね。


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By 晩霞舎 ( 2012-07-13 at 11:27 PM) · Filed under ハード
iPod touchに入れているiOSの電子書籍アプリ、bREADERを何気なく開くと、ずいぶん様子が変わっています。このリーダーについては3つ前の投稿で、使っているフォントの文字数が少ないせいか、鏡花のEPUBでは文字化けが頻発すると一蹴してしまったのですが、その文字化けが解消しています。特徴的な一の字点の形から、フォントがKinoppyと同じ游明朝体に変わっていることが分ります。そういえばKinoppyのEPUBエンジンにはこのアプリのものが使われているらしいので、バージョンアップでフォント環境がKinoppyと同じになったとしても不思議ではありません。
そこで、アップデートの情報を確認してみると、案の定、游明朝体へのフォントの変更に加えて、何とこんな驚きの一文が目に飛び込んできました。
ePUBとUnicode テキストファイルで、 サロゲートペアで表現されるU+10000以上のコードポイントを持つユニコード文字と、IVS (Ideographic Variation Sequence) による異字体の表示に対応
特に後半。ほんまかいな、という感じです。これも3つ前の投稿で、現状のEPUB環境では鏡花の異体字を再現することは無理で、将来的にAdobe-Japan1などの異体字コレクションの利用に期待、というようなことを書いたばかりですが、それが早くも実現したということでしょうか。
半信半疑でさっそく試してみます。「IVSによる異字体の表示」のIVSというのは、異体字を表示するためのユニコードの規格で、基本の文字の後に「異体字セレクター」という識別コードをくっつけます。たとえば、「近」の二点しんにょうの異体字を指定するには、HTML上で「近󠄁」という具合にすればいいようです。「e0101」というのが異体字の整理番号で、めざす文字の番号は「SVIVS」というソフトを使えば手軽に知ることができます。
以前作ったお試しEPUBファイル「親子そば三人客」を Sigil でいじって、頭の方の何字かに異体字セレクターを加え、bREADERに読み込んでみます。おお、うまくいきました。近が二点しんにょうになり、灰のがんだれが交差し、鎖のなおがしらが小がしらになり、寒の点々がにすいの形になりました。うれしいので「親子そば」全編に異体字セレクターを加えてしまいます。結果、「又」1字を除いてすべて異体字に変身させることができました。また、アップデート情報に「サロゲートペアのユニコード文字に対応」とあったように、これまでKinoppyでは化けていたので外していた字体も復活させることができました。あっけなく、ほぼ底本の字体を踏襲した鏡花EPUB本ができてしまいました。
ずっと先のことだと思っていた、EPUBでの異体字の利用がこんなに早く実現してしまうとは。しかし調べてみると、ウィキペディアの異体字セレクタの項にはこんなことも書かれています。
Windows 7は標準のテキスト描画処理が異体字セレクタに対応しており、エクスプローラーでのファイル名表示やメモ帳やサードパーティのテキストエディタでのテキスト表示等で異体字セレクタによる字形切り替えが可能である。但し、使用するフォントが異体字セレクタによる字形切り替えに対応している必要があり、日本語版にプレインストールされた標準的なフォントであるメイリオは非対応であるため、初期設定では異体字セレクタで字形が切り替わらない。
ユニコードIVSはもう身近に実現されていたのです。そして、フォント環境が多くの場合固定されている電子書籍リーダーでは、さまざまなフォント環境を考慮しなければならないパソコンとは違って、その気になればIVSはすぐに実現できるものだったということがいえそうです。電子書籍リーダーの多くは、専用フォントとして異体字コレクションを内包した最新のものを使っていることが多く、仕組みさえ整えれば豊富な異体字がすぐに表示できるということでしょう。
といっても、現在IVSが使えるリーダーはbREADERただ一つ。試しに、Kinoppyに読み込ませてみると、異体字セレクターの部分が化けてしまいます。ソニーReaderでは文字化けはなく、異体字セレクターは無視されてこれまで通りの基本字で表示されています。今までは主に青空文庫や自炊本のリーダーとして知られていたこのアプリは、IVS対応によって一気にEPUBリーダーの最先端に躍り出たといえそうです。
bREADERにはこの他にも豊富な機能があり、文字サイズはもちろん、行間を調整できたり、まだ試していませんがiTunes経由で好きなフォントを入れて表示することも可能なようです。扉画像の断ち切りだってできています。動作もクラウドと頻繁にやり取りするKinoppyに比べてスムーズで、Kinoppyに代わってiOSの標準リーダーにしてもいいかと思いますが、残念なことにiPadの画面サイズには対応していません。いかんせんスマートフォンの小さな画面ではメインの読書ツールにはなりえません。電子ペーパーの専用端末にbREADERの異体字機能が載れば素晴らしいと思うのですが、ソニーは次の新型でようやくEPUB3に本格対応ということになりそうだし、koboはこれからだし、まだまだそこまで手が回らないのが実情でしょう。せめてbREADERにiPad版があって、噂のiPad miniに乗せることができれば、機能・サイズともに(液晶はつらいですが)ベストな読書デバイスになりそうな気がします。
→追記 気がつくとbREADERの行頭の起し括弧の扱いがバラバラになっています。天付きの半角取りがあるかと思えば、天付きの全角取り、個人的には望ましい2分あきの全角取りもあります。それが同じページ内にもまざって出てきます。同じエンジンを使っているというKinoppyは2分あきの全角取りで固定されているのに、どうしたことでしょう。バージョンは最新の1.4.1で、最近アップデートがあったはずですが、この現象はアップデート後のことか、以前からあったのかは不注意にして不明です。どっちにしてもこのままではまずいでしょう。(2012.8.7)
→9月5日のアップデートで修正されました。
親子そば三人客(異体字セレクター使用版)
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By 晩霞舎 ( 2012-07-03 at 3:03 PM) · Filed under ニュース, ハード
楽天koboの画面画像リンク。
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/096/96039/
http://internet.watch.impress.co.jp/img/iw/docs/544/311/html/298.jpg.html
http://internet.watch.impress.co.jp/img/iw/docs/544/311/html/300.jpg.html
昨日発表された楽天koboは、ビューワエンジンにACCESS社の「NetFront BookReader v1.0 EPUB Edition」というのを使っているようですね。ネットに出ている画面写真で文字組みをちょっとチェックしてみました。
文中句読点→全角取り 〇
改行行頭鍵括弧→全角取り(半角下がり) 〇
連続約物(句点+受け鍵括弧)→全角取り+全角取り △
3字ルビ→字間拡大なし・微妙に文字かけ? 〇
4字ルビ→字間拡大あり・微妙に文字かけ? 〇
ルビの見立てが微妙ですが、写真で見た限りではなかなかいい感じです。連続約物が全角そのままなのがちょっと残念。あとは、しっかり禁則処理をやってくれるかどうか。
ネット情報ではハード的には海外版と変わってないそうで、だとしたらCPUも同じでしょうから、動作はソニーReaderに比べるとちょっと緩慢な感じになりそう。特に内蔵ブラウザにはイライラさせられることになりそうですが、海外の掲示板などを見ると、DropboxからのEPUBファイルのダウンロードは可能なようですから、まあEPUB制作の際の表示確認も、ReaderやKinoppyと遜色なくできるのではないかと思いいます。
それとモリサワのフォント(リュウミンKL?)が端正でいいですね。フォント設定もサイズだけでなく、行間やマージンも調整できる上、海外版のkoboは好きな日本語フォントを入れて使うことができましたから、文字表示に関してはダントツ多機能なリーダーということになります。
ようやくEPUB3が大きく動き出しそうな予感。
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