『客枕夢遊錄』〈笠置山〉

「笠置山に上れば、山甚だは險しからず。盤回して行くに、凡そ八町にして福壽院に達す。山上は竒石巨巖多し。もと、彌勒巖、文珠巖有り。火を經て漫滅す。獨り虚空藏、儼然として猶存す。巖髙四丈許、佛身之をむ。狀貌奇古たり。其の北に洞門有って、門石大いさ五六丈。此の間、老杉怪栢、鬱葱うっそうとして日を蔽ふ。而して大石錯立し、猛獸奇鬼のごとく、森然として人をたんと欲す。股栗こりつ久しくむる能はず。既にして洞門を出づれば、眼界とみひらけ、行雲飛鳥を數里の外に見る。崖にしたがって進めば、危石懸巖、ますます出でて益奇なり。視、給するに暇あらず。ひそかに喜ぶ、三絶の外、更に一奇觀を添ふを。」(『客枕夢遊錄』三月二十七日)

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