Kindle出版後の訂正など

 先月末に初めて有料出版してみたKindle版の「航薇日記」。その後の販売数はもちろん微々たるものですが、それでも買ってくださる方がいることに胸おどる思いを味わっています。思うに、こういう、紙の本で出版・再版されることがほとんど期待できない本で(「航薇日記」は今度復刊された筑摩の「明治文学全集」に収録されていますが、注なし、句読点なし、ルビなしの底本そのままという形)、けれど読みたい人は少数ながら必ずいて、読まれる価値もあるというような本こそ、電子書籍の出番ではないでしょうか。今のところ、KDPを初めとする 電子書籍の自主出版は、書き手になりたい人に大歓迎され、そのデビューのハードルを一気に引き下げたことで注目されているようですが、一方で、こういった埋もれていた本やテキストに光を当てるという役割についても、もっと注目されていいのではないかと思います。そして、そうした本の発掘と書籍化にはパブリックドメインのテキストを流用するのとは格段の労力が必要ですから、KDPのような有料を前提とした出版・流通システムを活用することで労力への報酬がある程度期待できるようになれば、青空文庫とはまた違った電子化のムーブメントが始まるのではないかと期待しています。

 ところで、KDP本を買ってみてまず気になるのが、内容よりも校正漏れの多いことではないでしょうか。文字校正というのは、単純そうでいてかなりの手間と習熟が必要な作業で、本来プロが二度三度と行ってようやく校了となるものです。しかもそれで完璧だとは誰にも 保障保証できません。自主出版者がたった一人で完璧を期するのはどだい無理な話なのです。と、エラそうに書きましたが、それはもちろん当方にも当然あてはまり、「航薇日記」にも出版後に文字の誤りと機能不全がいくつか見つかりました。それも雨垂れ式に。

 前回書いたように、KDPでの本の訂正は簡単で、訂正したファイルを再度アップロードすればオーケー。訂正版でもその都度、アマゾンの審査を通過しなければならないらしく、差し替えられるまで少し時間がかかりますが(二度三度と訂正を繰り返しているうちに、それまで何事もなくパスしていたのに、著作権切れの根拠を示せというメールが来たのには驚きました)、それだけのことです。

 ところが、出版直後に試しに自分で購入していた「航薇日記」を、端末から一旦削除して再ダウンロードしても、訂正が反映されていません。再出版途中でプレビューしたファイルはちゃんと訂正されているのに、どうしたことかと調べてみると、一度購入・ダウンロードされたファイルは、訂正があっても自動的に差し替えられるというわけではないようです。すでに購入された本の更新については、出版者がアマゾンにその旨申請する必要があるよう。そして、アマゾンが大きな修正だと判断した場合は、購入者にメールが行き、MyKindleから修正版がダウンロードできるようになりますが、小さな修正だと判断した場合は、修正版がダウンロードできるものの、メールは行かないということになっているようです。だから後者の場合は、修正・改版の通知は本の説明ページなどに入れておくしかなさそうですが、すでに購入した人がそれを読むことはあまり期待できず、苦しいところです。しかも、アマゾンが対応してくれるまで「4週間以内」とけっこう待たなければなりません。その間にまた訂正が見つかりそう…。→KDPヘルプ「更新に関してお客様に通知」

 もっと簡単にできないものかと思ってしまいますが、まあ、出版者にしっかり校正をやってから出版せよ、また安易に手を加えてしまいたくなるような煮詰めの甘い状態で出版するなと、警鐘を発する意味もあるのかもしれません。また、読者の立場に立てば、制作者のミスで再ダウンロードしなければならないのは迷惑な話だし、栞やメモなどを残していればそれが消えてしまうのを甘受しなければなりません。校正ひとつを取っても、既存出版社と電子書籍の自主出版者とのレベルの差は月とすっぽんで、多くの読者があらかじめ予想できる作者ならば、プロ校正者に依頼するといったことも可能でしょうが、それは例外的なケース。今後も誤植だらけの自主出版本という事態は容易に解消されないのではないかと思いますが、もちろん他人ごとではありません。有料・無料に関係なく、電子本のチェックは徹底してと胆に命じた次第です。(しかし自信ない…)

2 comments »

  1. 晩霞舎 said,
    3月 3, 2015 @ 1:14 AM

    はじめまして。
    個人出版のまさに眼高手低の現状、身につまされます。

    これは2年前に書いたものなのですが、その後何冊かの電子書籍を作ったことによって、この課題はますます切実なものになってしまったように感じています。実は今も一冊改版作業中なのですが、恥ずかしいミスや不親切な部分が、見れば見るほど見つかって、ごく少数ながら買って頂いた方に、どの面下げて連絡すればいいのか、なんとも悩ましい限りです。

  2. tomozawa said,
    3月 2, 2015 @ 8:24 PM

    はじめまして
    ぼくも最初安易に考えて出版、
    改訂版を出すのにえらく往生しました。

    >安易に手を加えてしまいたくなるような煮詰めの甘い状態で出版するな
    ぼくも同じ結論に達しました。
    これは英語のサイトですが、同じことを言っています。
    この筆者は物理学者で日本のアマゾンでも「人気」じるしがついている
    本を書いています。

    The best action is to do everything possible to get the book right the first time.
    You only get one chance to make a good first impression.

    https://chrismcmullen.wordpress.com/2013/09/25/unpublishing-republishing-and-updating-your-book/

    校正についてもおっしゃる通りです。
    紙の本でも最近は出版業界もコスト削減で実務は下請けに丸投げしているのか、
    先日読んだ野口悠紀雄『クラウド「超」仕事法』(講談社)
    は意味のとれない個所、年代が100年違っているところがありがっかりしました。

Comment