「羇旅漫録」で苦労した点

 先日、四つめのEPUB本「羇旅漫録」をアップしましたが、その制作も暗中模索・試行錯誤の連続。まあ、多くは自分のスキル不足が原因なのですが、なかにはEPUBの規格やリーダーの仕様によるものもあります。制作の過程で見えてきたことを、以下にまとめておきます。

FUSEeβを初使用
 この本は鏡花本の場合と違い、古典といっても味読系ではなくいわば情報系で、どう書かれているかより、何が書かれているかが肝。で、思い切って読みやすさを重視して本文を新字・新かなにしてしまいましたので、二三の外字画像を使った以外は、旧字関係の苦労は回避できました。また、ルビの量も総ルビの鏡花本とは大違いだったので、制作はinDesignを介さずに、エディターで加工した元テキストをFUSEeβ に取り込んで行いました。FUSEeβはEPUBを直接編集するSigilと違い、プロジェクトファイルを保存してそこからEPUBを書き出すスタイルのソフトですが、定型的な工程はSigilと同じように自動化されているようで、違和感なく使うことができました。ただ、高価なマニュアル本を買わずに手探りで使っていますので、パッケージ文書などを手編集した際、下手なことをやってしまってプロジェクトファイルが開けなくなったりといったことも。書き出していたEPUBファイルを読み直して再開できましたが、自動化が主体のソフトだけに手編集への許容度は低いのかもしれません。また、一応完成した後のEPUBファイルの小さな手直しはSigilの方が手っとり早いのでこちらを使っていますが、SigilはSigilでドキュメントを勝手に書き替えてしまうことがあり気が抜けません。もともと個人が効率に関係なくシコシコやっていることながら、制作の流れはまだまだ流動的で不安だらけです。

挿図の位置はリーダー任せ?
 この本には大小の挿図がけっこうな数あり、今回はそれをどう入れるかに苦心しました。挿図は大きく分けて、①1ページを丸々占めるもの、②上寄せか下寄せか天地100%で文中に置くもの、③行内に文字と連なって置くもの、の3種類がありましたが、悩ましいのは①と②、特に②。図の入る位置にスペース(横幅)が十分にない場合は、図は次のページに送られてしまい、前のページには大きな空白ができてしまいます。1ページ大の図の場合は関連した文章の次のページに図のページが来るので、多くの場合文章の後に空きができるのは、まあ仕方のないことですが、②の挿図でこれが起こってしまうのはちょっと苦しいという感じがします。文字組みが決まっていれば、イメージタグの挿入位置を前後させることでうまく収めることもできるのでしょうが、リーダーによって文字組みは異なりますし、読者が文字サイズを変えることによっても違ってきます。あらゆる条件でベストな挿図の位置などというのは、現状では実現不可能でしょう。このようなことが起こるのは、文章の特定の位置にしか挿図の指定が行えないからですが、それをもっと幅をもたせて一群の文章のどこか適当な位置に置くといった指定ができて、それをリーダー側が空白が出ないように塩梅できるようになれば、もうちょっと改善されるのではないかと思いますが、果たしてそんなことが可能なのかどうか。

リーダーによって違うナビゲーション文書
 EPUBにはナビゲーションドキュメントというものが必須で、リーダーはこの文書を目次表示機能で利用しています。EPUB2までは.ncxという拡張子の書類がそれで、コンテンツ内に目次を置きたい場合は、それとは別に目次ページも作らなければならなかったのですが、EPUB3からはXHTMLのナビゲーションドキュメントを一つ作れば、それがリーダーのシステム目次とともにページ内の目次も兼ねるようになりました。もちろん、EPUB2のように別途目次ページを用意してそれを使うことも可能です。
 ややこしいのが、リーダーによってこのナビゲーションドキュメントの扱いが異なるということです。たとえば、iOSのKinoppy・bREADERとkoboは.ncxとXHTMLの両方、つまりEPUB2・3のナビゲーションドキュメントを利用できますが、ソニーReaderは.ncx文書しか読んでくれません。だから、ソニーReaderに対してはシステム用の.ncx文書と本文用の目次が必要です。一方、Kinoppy・bREADERとkoboはXHTMLのナビゲーション文書一つあればシステム用と本文用を兼ねられるはずですが、Kinoppy・bREADERにEPUB3のナビゲーション文書を本文目次として読ませると、EPUB3の規定通りにリスト形式で記述されたその目次は、何と改行されずに一連なりになって表示されてしまう、つまり目次として使えないということが起ります。ややこしいですが、まとめるとこういうことです。

    システム目次 本文目次
nav.ncx(EPUB2) nav.xhtml(EPUB3)
ソニーReader × 別途用意
楽天kobo ナビ文書兼用可
iOS Kinoppy・bREADER 別途用意
(bREADERはリンク不可)

 つまり、koboだけならEPUB3のナビゲーションドキュメント1つで完結するのですが、ソニーReaderとKinoppy・bREADERのことを考えると、結局3つの目次関係の文書を用意しなければならないということになります。いや、厳密にいうと、現状ではEPUB3のナビゲーションドキュメントはなくても構わない(鏡花EPUBはそうです)のですが、今回はFUSEeが自動で作ってしまったし、EPUB3と名のる以上はやはり置いておかなくちゃ、という次第です。
 ところでもう一つ、目次に関して落とし穴がありました。今回の「羇旅漫録」はKinoppyではなぜかシステム目次が空白になり表示されないのです。同根のリーダーであるbREADERには問題がないのにどうしたことかと、色々試してみて結局分ったのは、ナビゲーションドキュメントにマーカーが使われているのが原因だということ。ファイル内リンクのための#を頭につけたマーカーがあるとKinoppyはその目次を読まないようです。仕方なくKinoppyでは、ファイル内リンクを省いたおおざっぱな目次のみでお茶を濁しています。

koboの栞対策
 前回の投稿でも触れたkoboで自作EPUBを読むと、栞(読書位置)が残らないという現象。一番の対策はセンテンスごとに< span >タグで一定の番号を振ることのようですが、それはあまりに手間なので、「羇旅漫録」では各項目ごとに< section >タグで括って、kobo.1.1から始まる番号を振っています。これで一応は栞が残りますが、次に開いた時は各項目の頭、つまり見出し部分に戻ることになりますので、複数のページに渡る項目では厳密に読んでいたページが記録されるというわけではありません。また、全文検索ではピックアップはしますが、単語の位置へのジャンプはできないようです。

 「羇旅漫録」制作で出くわした主な問題点は以上ですが、他にもソニーReaderではカバーの書影が扉の画像に固定されていてパッケージ文書での指定が効かない、koboのシステム目次で、同一ページに二つの目次項目がある場合、後ろの項目へしか飛べない、前の項目をタップするとファイルの先頭へ飛んでしまうといった、各リーダーに起因する問題があり、これらに対しては今のところお手上げです。いずれにしても作ることで問題に出くわし試行錯誤しながら何とか対策を見いだしていくというスタイルで、これからもEPUBとじっくり楽しくつきあって行きたいと思っています。

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