『南游志』アルバム1〈菊池溪琴ゆかりの湯浅・栖原を訪ねる〉

「晩れて湯淺に宿す。栖原に距たる半里なる可し。故人菊池士固の居在り。士固、別號溪琴。詩名世に噪ぐ。又好んで武を講ず。奇士也。靖共を遣はし之を訪問す。明日來訪を約す。」(『南游志』三月十七日)

「湯淺は海に瀕し、舟舶輻湊し、人戸二千餘。紀中の好港と為す。旅店は港に臨み、扁有って古碧樓と曰ふ。暁、起きて簾を掲ぐれば、烟消え日出づ。海山縹渺として處處に欸乃の聲有り。柳州の詩興想ふ可し。飯訖はり、從侶を率ゐて歩して岸上に到る。刈藻島、前に當り、一竅有って明を通ず。頗る奇なり。岸に沿うて廣村に到る。人烟亦稠し。甲寅海嘯の變、屋毀壞して、未だ盡くは復せず。」(同十八日)

「冷雲來り迎へ、菊池氏に詣る。主人、床を庭中に設け、余及び從侶を延く。泉石幽麗、櫻花盛開して、其の上に掩映す。茗を啜り顧盻し吟賞すること、之久し。還堂に登る。堂宇、高敞なり。」(同十九日)

「時に山月未だ升らず、庭下の泉聲、益幽なり。杜詩謂ふ所の「暗水は花徑に流れ、春星は草堂を帶ぶ」、此の夜の景況と為し、…千餘年前の左氏の夜宴と遇ふ所は正しく同じ。」(同)

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